雑司が谷ZEH3・パッシブデザインとは

パッシブデザインと言う言葉を最近よく聞くようになりましたが、具体的なイメージは分かりにくいと思います。今回はパッシブデザインとはどういう事か、雑司が谷ZEHを例にご説明したいと思います。

自然エネルギー利用で省エネ、快適な建物を作る技術

パッシブデザインというのはできるだけ機械設備に頼らず、自然エネルギーを有効に使って省エネで快適な建物を作る技術です。日照の制御、通風、植栽の利用などきめ細かい建築的なデザインの工夫を積み重ねます。一つ一つはわずか数パーセントの省エネだとしても、それを十、二十と合わせれば使うエネルギーを半分以下にすることも可能です。

パッシブデザイン:まずは太陽を味方にすること

日照制御・太陽を味方にしよう。

太陽はとても大きなエネルギーを地球に注いでいます。それは敵にも味方にもなります。冬の日だまりの暖かさはとても快適なものですが、夏の日射は命さえ奪いかねません。日射をうまく制御して太陽を味方にすることがパッシブデザインの一番のポイントです。

日射を制御する技術

この日射制御というのは実は意外に簡単です。季節による太陽の位置の違いを理解することです。都合の良いことに太陽の「高さ」は夏と冬ではまったく違いますから、南の窓に適当な大きさの庇(軒)を出しておけば、高い角度の夏の日差しは庇でカットされて室内まで入りません。一方冬の日差しは角度がずっと低いので庇があっても十分に中まで入ります。しかし夏の太陽も朝日、夕日は角度が低く庇では防げませんから、東西の窓は小さめにして遮熱性能の高いLow-eガラスを使い、外部の日除け(オーニング、よしず、スダレや落葉樹、グリーンカーテンなど)でできるだけ遮断する必要があります。
雑司が谷ZEHの南の大きな窓はすべて十分な庇(軒)が出ており、冬の光は十分取り入れながら夏の日は防いでいますが、敷地形状の関係で真南から30°ほど西に向いていて西日は十分には防げないので、夏場の西日よけには後述するグリーンカーテンが大いに役に立っています。

通風・換気:風があるとは限らないので

通風・換気:風が無くても大丈夫。

通風は風がよく通るように2方向以上に窓を開けることが原則です。しかし真夏の一番暑い時期はほとんど風が無いですし、もし風があっても35度を超えるような猛暑日の熱風には無力です。そんな時はエアコンに頼るしか方法がありませんが、そこまで暑く無い真夏の前後の時期は涼しい夜間の冷気を取り入れることは有効です。暖かい空気は軽いので上昇し、冷たい空気は重くて下に溜まるので、高い所と低い所に窓を開けて温度差による換気方法を使うと、低い窓から涼しく重い空気が入ってきて、室内の暑い空気は高い位置の窓から排出されます。雑司が谷ZEHでは、北の涼しい空気が取り入れられる低い位置の窓と3階分の高低差がある吹抜上部にある天窓が効果的に働きます。天窓を開けたとたん、下の窓から涼しい外気が入って来るのを感じます。そのようにして少しでも涼しい空気を取り入れてしっかりした断熱性能の建物内に涼しさを溜めておきます。

植栽の利用:省エネは楽しみながら

植栽の利用:楽しみながら省エネ。

植栽は多様な効果があります。新緑、花、実、紅葉と視覚的に楽しませてくれるのはもちろんですが、機能的にも日除け,目隠しと大活躍です。雑司が谷ZEHでは玄関ポーチから2階デッキへ突き抜けるシンボルツリーにヤマボウシを選びました。落葉樹なので四季折々の変化が楽しめるとともに、夏は涼しい木陰を作ってくれますし、一方冬は葉を落として日差しの邪魔をしません。そしてもう一本比較的大きなシマトネリコが食堂の大きな窓の前にあり道路からの視線を遮る役目を果たしています。完全に目隠しにならなくても間に視線が止まる木が一本あるだけでほとんど気にならなくなるものです。そして2階バルコニーには西日対策のグリーンカーテンを育てました。定番のゴーヤとアサガオだけでなくいろいろな種類があるので、今年は何にしようかと考えるのも楽しみです。グリーンカーテンは特に残暑の頃、太陽は少し角度が低くなり西陽が気になりますが、ちょうど一番葉が茂る時期で、効果的に日射を遮ってくれます。

蓄熱・熱だって溜めておけます。

蓄熱・熱だって溜めておけます。

太陽の力は偉大で、冬でも晴れれば室内は暑いぐらいになりますが、断熱の十分でない家では日が陰ってしまえばどんどん冷えます。晴れなければもちろん寒いですね。そこで太陽の暖かさを溜めておけないかと言う考え方が「蓄熱」です。高気密高断熱の建物なら昼間の暖かさは、夜間までかなりキープ出来ますが、雑司が谷ZEHでは更にたくさんの熱をためる工夫をしています。冬場一番良く陽の当たる2階南の窓際の床は厚さ10センチのコンクリートに石を貼った蓄熱床です。ここに昼間の太陽熱を十分溜めて夜間の窓からの冷気を防ぎます。しかし一番大きなポイントは床下の地中に蓄熱する点です。ここは無限の蓄熱槽ですから、単に昼間の熱を夜まで貯めておくだけではなく、さらに発展させて夏の太陽熱を冬まで溜めておくことも考えています。

基本は高気密高断熱ですが遮熱も大事です

基本は高気密高断熱:遮熱も大事です。
せっかくパッシブデザインの様々な工夫をしても、断熱気密が弱くザルのように熱を漏らしてしまっては、十分な効果を発揮できません。やはり少しのエネルギーで快適な温熱環境が保てる熱的に高性能な建物にすることが基本です。雑司が谷ZEHでは断熱は壁厚いっぱいの充填断熱に加えて30ミリの外貼り断熱を付加しており(ハイブリッド断熱)、次世代省エネ基準をはるかに超える高性能です。また、屋根は断熱はもちろんですが夏の暑さ対策として遮熱が重要で、断熱の上に太陽熱を反射するシートとその熱を排出する通気層があり、真夏の小屋裏でも下の階と温度差がありません。

サッシ:断熱気密のキーポイント

サッシ:断熱気密のキーポイント

パッシブデザインを考えるとき、ポイントになるものの一つのが窓です。窓は冬場には昼間に太陽の暖かさを取り入れる大事な役目がありますが、高性能なサッシでも十分な断熱の壁に比べれば断熱性能は比較にならないほど弱いものです。昼間に太陽熱を取り入れると同時に、太陽が沈んだ時間にはその暖かさを冷まさないようにしっかり守る高い断熱性能も重要です。サッシは断熱性能が高い程良いと言えます。しかし超高性能なサッシはコストも高くなります。雑司が谷ZEHは、少し西を向いた大きな窓が熱的にはきつい条件で、ZEH基準をクリアする為にやむを得ずトリプルガラスサッシを使っていますが、程々の性能のサッシでも写真のように外部シャッターや内部の断熱ブラインドなどを加えることでコストバランス良く断熱性能を補強することもできます。そのあたりの工夫も大事なパッシブデザインです。

まとめ

パッシブデザインというのは実は特殊なことではなく、自然と仲良くする様々な工夫です。伝統的な建物では普通に行われてきたことも多くあります。一つ一つは特別なことではなくても、それをていねいに積み重ねることで驚くほどの効果を発揮できるものなのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA