緑のちから、心地よい住まいは庭づくりから

家をつくるということは、庭をつくるということ

「家は庭が出来てはじめて家庭になる」とはある施主からの言葉ですが、これほど私たちの家づくり、庭づくりをあらわした言葉はありません。私たちが住宅を設計するときは、まず最初に敷地の中に建物と庭をどのように配置するか、つまり家と庭の設計は同時に考え始めます。どんなに小さな敷地でも緑のスペースをないがしろにすることはありません。むしろ小さいからこそ、その緑が大きな潤いと存在感になるのです。広いから庭をつくるのではなく、60cmのスペースも庭と考えます。
住まい手が心地よさとそこに生きる喜びを感じる家にするには、緑が欠かせませんし、パッシブデザインをささえる部材としての植物のちからもきわめて大きいものがあります。ですから私たちは、敷地に余裕があれば南の主庭だけでなく風の通り道を考慮して北庭をつくったり、敷地の中に複数の庭を考えます。また旗竿敷地などはその旗竿の部分にアプローチの庭をつくることでかえって豊かな環境をうみだすこともできます。


木立の中に住むように・家の内と外から考える

建物を外から見たとき、その周囲を囲む植栽は街並みをつくる重要な要素ですが、私たちが木を植えるとき何よりも大切にするのは、室内から見た風景です。理想は木立の中に住んでいるように感じられることですが、多くのクライアントの方々がそれを実感してくださっています。室内と外の心地よい交流はそこに植物があることで生まれるといっても過言ではありません。室内から眺めた時に木々が身近にあると、外側に大げさな塀を張り巡らすよりよほど効果的な目隠しになりますし、家の2方向以上に庭をつくって両方の窓から緑が取り込まれると、本当に緑に囲まれたような感じになります。

 

家の近くに木を植えよう

家と木の関係でいえば、何より植物の配置が重要ですが、ひとつ大切なコツのようなものがあります。とにかく家のなるべく近くに一本、落葉樹を植えるということです。それはパッシブデザインの説明図にもあるように冬は日陰を作らず、夏に建物に緑陰をもたらす落葉樹です。そうすることで木と建物が語り合うような関係性ができて建物にも豊かな表情が生まれます。なにより身近に木があることで、芽吹きや花芽の成長を日々感じることができ住んでいる人間の感受性に直にうったえかけます。身近に葉や花を感じるのはうれしいものです。


外に向かう庭をつくる・緑のおすそ分け

私たちの設計する住宅では、可能な限り道路や街区に向けた植栽スペースをつくります。ほんの30cmでもいいですし、60cmもあれば立派に木が植わります。道路際いっぱいまで建てられたブロック塀などをみると悲しくなりますね。あと30cmセットバックしたら、その家にとっても街にとってもはるかに豊かな空間がうまれるのです。そんな緑が縁となってご近所の人たちと、「この木は何の木?」から話がはずんで交流が生まれたりするので、SURが設計する庭の木々には必ず名札をつけておきます。なかなか数十にもおよぶ植物の名前を覚えきれないですし、名前がわかると愛着もわきます。もともと桜と梅くらいしか知らなかった方が、木々の名前を憶え、日々庭木の成長を楽しんでいらっしゃる様をみると設計者冥利につきます。

庭を楽しむ生活の提案

基本的に庭は外から見たり、室内から眺めるものと思われていますが、本来はその庭の中に身をおいて、木陰で時間を過ごすことこそ至福の楽しみです。残念ながら夏は蚊の襲来があるので気軽に外の生活を楽しむことができませんが、気候のよい春や秋は十分使えますし、夏にBBQなどをするときも蚊取り線香を2,3台用意すれば間に合います。そんな楽しみ方にはある程度の広さのデッキやバルコニーが欲しいですね。リビングやダイニングの延長になるような位置で、家の近くに植えた木の木陰になる場所に少し広めのデッキが用意できると最高です。そこにシェードも設えればより快適な場所になります。

手入れをしながらともに育つ

庭をつくると、みなさんお手入れを心配されます。確かにシンボルツリーのような落葉樹の大木は落ち葉の掃除が冬の課題です。草取りや落ち葉掃きのお手入れは必要ですが、それはある意味すがすがしい作業でそれを楽しむことも庭をもつ醍醐味です。落ち葉の季節になる前に、剪定をかければ掃除の量を減らすことはできます。庭の美しい景色だけ楽しんで、お掃除はイヤだというのでは、ちょっと身勝手ではないでしょうか?「お手入れ」をしながらともに育っていくというスタンスが大切ですね。これは家についても同様です。

 

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