雑司が谷ZEH1・エコハウスの考え方

2016年に竣工した私(浦田)の自邸「雑司が谷ZEH」を題材に、ネット・ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)について何回かに渡って解説ていますが、先ずは全体計画、どんな考えで計画をまとめたのかという話です。

基本計画・我慢しない省エネ住宅、言い訳しないパッシブデザイン

省エネルギー住宅というとなにか我慢をしながら生活しなくてはいけないイメージかもしれません。いくら地球環境のためとか温暖化防止といっても「我慢する必要のない、むしろ使いやすく快適な住宅」にできないものでしょうか。高気密高断熱は必要ですが、だからといって冷蔵庫みたいなガチガチに断熱材で固めて、大きな窓もない閉鎖的な空間が本来の省エネ住宅ではありません。
自邸では自然と対話しながら、自然の恵み、自然な暖かさ、涼しさを味わえる、むしろ自然と共存し、自然を満喫できる開放的で快適な住宅にしたいと考えました。
また、省エネ住宅というと広々した日当たりの良い敷地に建ち、いかにも省エネ住宅ですというなにか独特の雰囲気があるような気がします。でもそんな感じを払拭し「省エネのためには格好悪くてもしょうがない」という言い訳を一切しないデザインにする。それがこのプロジェクトのもう一つの目標でした。

配置計画、ボリューム計画・先ずは日照を確保

エコハウスのためには、できるだけ日当たりが良く、風通しも良い敷地が理想ではありますが、なかなかそうはいきません。建て込んだ市街地でも与えられた条件の中で最適な解を見つける必要があります。その敷地の自然条件を注意深くチェックして、その敷地の持つ最大のパフォーマンスを引き出す努力をします。
雑司が谷ZEHはかなりの変形敷地ですが、東西に細長い建物を北に寄せて配置することでどのスペースも南面することが可能になり、十分な日照が確保できました。幸い現在は南隣地が駐車場ですが、周辺は3階建て中心の市街地で、いずれ駐車場にも建物が建つことを想定して、2階リビングの3階建てとしました。3階までの吹き抜けはそこから将来にわたって十分な日照を得るための計画です。大きな吹抜空間はデザインのためだけではなく、とても大切な機能を持った空間なのです。

構造計画・難しい条件でも耐震等級3を確保したい

構造は省エネとは直接関係ありませんが、日照、通風などに配慮したエコハウスの場合、吹抜や南面の大きな開口など、構造的にはきつい条件になりがちです。
雑司が谷ZEHは東西に非常に細長く3階建てで、1階にはガレージのピロティ、2,3階は大きな吹抜、さらに南面には大きな窓が並んでいて、構造的には厳しい形です。しかしSE構法という金物使用の耐震構法により最高の耐震等級3とすることが出来ました。
省エネ住宅は災害などの非常時に強いのですが、建物が倒壊してしまっては意味がありませんから、耐震性能と対になってこそ本領が発揮出来ると思います。

エコハウスが可能にするオープンな空間の使いやすさ

使い勝手も省エネとは直接関係は無いのですが、しかし実は結構大きなつながりがあります。
どういう事かというと省エネ住宅は温度のバリアフリー化が出来るので、非常にオープンなプランが可能になるからです。ドアも少なく、温度差もない動きやすく広々とした空間は、動線計画という点でも、また掃除などメンテナンスのしやすさの点でも有利です。雑司が谷ZEHは廊下空間がほとんど無く、動線部分も部屋と一体で、必要最小限の引き戸があるだけですから、実際の面積(114.5㎡・34.6坪)よりはるかに広々と感じます。

造園計画・庭は建物の余白ではなく積極的に計画する

植栽は単に人の目を楽しませてくれるだけでなく、目隠しとしての役目や、日照調整、温度調整など省エネ住宅の
重要なアイテムでもあります。したがって造園計画まで含め敷地全体を計画するというのが基本です。住宅は植栽と相まってはじめて完成するのだと思います。
雑司が谷ZEHは変形敷地なので、建物で庭が分断されますが、玄関ポーチの庭、バスコート、東のプライベートガーデンとそれぞれ役割、性格の異なる庭を構成し、2階のリビング前のデッキはシンボルツリーとグリーンカーテンが囲みます。さらに外部空間という意味では屋上もあります。
変化に富んだ外部空間がシンプルな形のこの住宅に広がりと奥行きを与えてくれます。

省エネ、ゼロエネといっても、特殊なものではなく、また我慢して実現するものでもありません。
パッシブデザインの住宅は、デザイン、使い勝手、構造すべてにバランスの取れた住宅です。
そして風、光、緑を満喫し、自然と対話をする生活が可能になります。

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