日本エコハウス大賞シンポジウム
一昨日(1月28日)、日本エコハウス大賞シンポジウム第5回が行われました。
日本エコハウス大賞は建築の専門誌「建築知識ビルダーズ」主催でエコハウスのコンテストとしては
日本で一番レベルが高いと専門家の間で評価されています。
SURも第3回と第4回に応募し、優秀賞と審査員特別賞を受賞させていただきました。
5年間にわたる関係者の皆様の努力で、初期の目的はほぼ達成されたという事で、
今回の第5回が最終回、一旦休んで次の展開を考えるとの事です。
以下に、シンポジウムの内容の簡単なまとめと、感じたことを書きました。
第1部:協業上手が成功する。建築家+工務店でつくるエコハウス
まずは第4回大賞受賞者の建築家・飯塚さんと工務店・オーガニックスタジオ新潟の相模さんです。
この2者のコラボレーションで大賞受賞作品は生まれたわけです。
始めに飯塚さんから、建築家と工務店、それぞれの得意分野を生かしつつ
お互いにその垣根を越えて(越境という表現をされていました)刺激し合い、
より大きな効果を発揮するべきコラボのあり方についてのプレゼンです。
そしてその時の建築家としての設計手法、「間取り」からではなく「内と外の境界」から
デザインすると言う考え方が面白く、特に設計初心者にとっては新鮮であろうと思いました。
引き続き、施工者サイドから相模さんのプレゼンです。最近の活躍は十分知っていましたが
ハウスメーカーの営業からどのように今の会社を立ち上げ、現在に至ったかと言う話は
あまり知らなかったので、なかなか興味深かったです。
Facebook等での普段の相模さんのバックにある、実はとても真面目な部分(笑)がうかがえました。
単に設計に従ってその通り作るという事ではなく、自分がよいと思う住宅を造るのだという
創業時から一貫した姿勢が信頼を勝ち得る秘密でしょうね。
これはあらゆる職種に当てはまることだと思います。
そして建築家とのコラボにおいてもその姿勢を貫き、お互いの領域にも「越境」して
刺激し合うということがとても良い結果をもたらしたのでしょう。
設計者、施工者それぞれの得意分野を生かす協業という形がこれからは
大きな流れの一つになるものと思います。
その先駆けとして成功した素晴らしい例です。
SURとしてもそのような協業の機会があれば是非関わって行きたいと考えています。
第2部に入る前に、特別枠で第五回大賞、サンハウスさんのプレゼン
例年だと、前回の大賞受賞者が冒頭にプレゼンするのですが、
今回が最終回と言うことで次回がありませんから
急遽第5回大賞のサンハウスさんのプレゼンがありました。
エコハウス大賞の公開審査の時にプレゼンを見ていたので内容は分かっていましたが、
なんと言っても道路側の外観が美しい。
私もこの外観写真にやられて、会場からの一票を投じたのですが、住宅の設計内容については
私だったらこうはしないと言うところも多く、結構ツッコミどころも多い気がします。
作品のレベルも非常に高いものになっていますが、内容以上にサンハウスの野辺さんの人柄、
はじめてエコハウスに取り組む真摯な姿勢がみなさんに伝わって評価が上がったように感じます。
でも、そこが実は一番大事だと思うので、それでよいのだと思いました。
第2部:エコハウス大賞審査員のプレゼン
第2部は審査員の方々がそれぞれの問題意識からのプレゼンです。
「前先生」
恐ろしい枚数のスライドを機関銃のようなスピードでのプレゼンです。
環境問題やエネルギー問題、ヒートショックなどエコハウスと健康のことまで
広く社会の中でのエコハウスという視点での問題意識と同時に、
これからのエコハウスが向かうべき方向まで、しっかり掘り下げれば2時間はかかりそうな内容です。
個人的に印象に残ったのは高気密高断熱がある程度達成された次に来るものとして
「蓄熱」が大事との指摘、20年以上前最初にホームページを立ち上げた時点から
高気密高断熱+高蓄熱をキャッチフレーズにしてきたSURとしては我が意を得たりとの思いでした。
「西方さん」
一貫した問題意識からのプレゼンです。
床断熱と基礎断熱の比較、床下の湿度の問題、秋田の地域性
実測したデータに基づいた説得力のある内容です。
ここでも、蓄熱ということが取り上げられていました。
「松尾さん」
いつもと一味違って、直接的にエコハウスのことではなく、いわば未来予想に近いプレゼンでした。
温暖化問題に限らず、人口比率の変化、巨大地震の可能性などがどのように社会に影響を及ばすか
という視点からの今後考えてゆくべき問題の提示です。
とりあえず目の前にある問題の解決も大事ですが、と同時に、広い視野で考えることも
とても大事だと思いますので、とても共感するところの多い内容でした。
「三澤さん」
リノベーションを中心にしたプレゼンですが三澤さんも実に一貫した取り組みです。
感心したのはリノベーション前にクライアントにきちんと説明の上、実際にかかる費用をいただいて
徹底した事前調査を行うということ。
当たり前のこととも言えますが実務としてなかなかできないことです。
そして印象に残ったまとめのフレーズ、
「残したくなる住宅をつくること。残すために、住宅を治すこと。」
常々思っているのは、これから空家が多くなるからリノベーションの時代だと簡単に言いますが、
先決は「残したくなる住宅であること」です。日本の既存住宅は一般的にはあまりにも質が低いので
先ずは良質なストックとなる住宅を作ること。ここに注力する必要があると思います。
「伊礼さん」
マイペースで自作の解説です。色々な分野の方とのコラボレーション、
新しい技術を取り入れることへの積極性、幅広くご活躍の伊礼さんですが、
感じられるのは性能と意匠があるレベルで両立した「一応の到達点」に来たのかなということ。
しかし決してここで満足される方ではないと思うので、次のステップに期待したくなります。
パネルディスカッション「応募作品にみるエコハウスのこれから」
最後に、今回の受賞作品に限定せず、審査時に意見が割れたり、注目点があった住宅を
ピックアップして審査員の方々のトークセッションです。
なにしろ個性的な先生方ですので、なかなか皆さんの意見がまとまることはめずらしいようで
ある方が二重丸のイチオシでも,他の方からはボロクソ(笑)ということもしばしば。
しかしある意味それはこのコンテストの素晴らしいところで、予定調和的なところは一切なく
皆さん本気で本音、だからこそ応募者も本気でここまでレベルアップしたのだと思います。
審査員の方々の評価ポイントも温熱では差がなくなったので、それ以外のところでとなると
立ち位置の違いが明白になるのでしょう。
批評される方はたまったものではありませんが、それもひとえに審査員の方々の
建築に対する情熱の発露なのできちんと受け止めたいものです。
エコハウスの現時点
日本のエコハウスを牽引して来たと言っても過言ではない「日本エコハウス大賞」
その5年間の歴史は日本のエコハウスのレベルアップの歴史だと思います。
手探りで始まったエコハウスも今や性能面では甲乙つけがたいほどになり、
そうなると「エコハウスとは何か」ひいては「良い住宅とは何か」という問題に行き当たります。
しかし一方では、エコハウスということに意識の行っていない工務店、設計事務所が
まだまだ、むしろ多数派という状況もあります。
つまりここでもいわば「二極化」という現象が起こっています。
従ってエコハウスを広く普及させ一般的なものにするという方向、
それと同時にエコハウスを単に性能の良い住宅に終わらせない、
建築としての魅力のあるものにする努力、両方が求められていると思います。
つまりどちらの方向も最終的にはエコハウスが当たり前のものになって
エコハウスという言葉がなくなり「単に良い建築になる」のが理想の状態ではないかと思うのです。